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読書感想文「風の十二方位(アーシュラ・K・ル・グィン)」

SF短編小説集ではあるが、この中に収録されている「オメラスを歩み去る人々」は考えさせられる。マイケル・サンデル『これからの「正義」の話をしよう』でも取り上げられた作品だが、正義とは何なのか?自分の幸福を支えているものは何なのかを考えさられた。
 
あらゆる苦難や問題が取り除かれ、人々が笑いあい、高慢な政治家もいない、まさに理想郷の「オメラス」。その「オメラス」を支えている、ただ一人の不遇の少女、それを皆が認知しながらも黙秘続ける人々。単純な正義感で読めば、『間違っている!』と糾弾することもできるが、彼女は自分の幸せだけでなく、自分の大切な人の幸せも支えていると理解していまうと、彼女を救うことが、自分の大切な人の幸せも奪うことになりかねないと思うと、簡単に糾弾することはできない。
 
小説の中でも、彼女を救い出そうとする人は現れない。矛盾を感じた人々は、悩みぬいたすえに自ら「オメラス」を去っていくだけだ。救い出してしまうと自分の周りの大切な人を不幸にしてしまうかもしれない、だが不遇の彼女の上に、自分の幸せが成り立ってると考えると、自分の心の安らぎが得られないと感じた人々は、自ら「オメラス」を去り行くしかないのだ。
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現実世界でも、多くのことが当てはまると思う。今、感じている「幸福」は誰かの「不幸」の上になりたっていないだろうか?答えは皆が判っている。他人の「不幸」の上に自分の「幸福」がなりたっている。否定する人もいるかもしれないが、幸い経済発展を遂げた国に住む我々は他国よりも多くの富を得たからこそ、発展してきた。
 
この富はどこかの国から搾取されたものであることは、学生でも判っていることではないだろうか?今日、自分が口にする食物を食べられないがゆえに、命を落としていく子どもたちが世界には多くいることを、皆が本当は判っているが、それを嘆き、その命を救う為に行動をおこす人は少ない。
 
私にできることは少ないが、僅かでも自分の「幸福」が他人により支えられていることを感謝し、僅かでも行動に移せるようになっていきたいと、私は感じた。残念ながら「オメラス」をさりゆく勇気は私は持っていない。
 
(30代男性)
 
 
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