暗い。あまりにも暗い。そして、重い。絶対に寝そべって読めない。
現実の世界の話ではないのに、リアリティが痛みになってのしかかってくる。それでも、読むのをやめることができない。ザ・ロードはそんな小説だ。映画化もされたので、本を読んだ後に観た。原作に忠実だったので、やはりこの本の良さをわかっている人は大衆におもねってとってつけたような希望に走ることはないのだなあ、と納得させられた。
核戦争で文明が滅びた後のアメリカ。よくある話だが、ほかのいろんな終末ものやパニック小説のように、どんなに混乱しても州兵が助けに来たらめでたしめでたしであるとか、一人の勇敢な行動によりすべての人が救われるとかそういうエンタメ的にすっきりする内容のものとは一線を画している。人間はどんな時でも人間性を失わないはずだ、力を合わせて困難に立ち向かうはずだ、などという根拠のない確信を持たない話運びに惹かれる。
人間は文明から放り出されると獣になるという自明のことを、これだけ露骨に描いている本も少ないと思う。それでいながら全く嫌な気持ちにならないところがこの作品の一番の魅力だ。それは、文明が滅びた瞬間にはまだ母親の腹の中にいた主人公の少年が、あまりにも清らかな心も持っているから。そんな世界では不利な弱点でしかない、まぶしいほど美しい心を持つ子供と、身を呈し全てをなげうってでも彼を守ろうとする父親。美男美女もヒーローも出てこない話をぐいぐい読み進ませる二人の主人公の何と魅力的なこと。この二人はキリストと洗礼者ヨハネの生まれ変わりだと、私は勝手に解釈している。
これは一言でいうと、世界の終わりに南を目指してひたすら歩く二人の親子の旅の物語だ。獣と化した元文明人がほかの人間を殺して飢えを満たそうと武器を持ってうろつき回る世界、強い者が弱い者を容赦なく虐げる世界。そんな世界で、危険が迫ると選択の余地なく父親は銃をとり、鬼になってでも子供を守る。時に過剰防衛とも思える行動に子供が抗議したり、ほかの人間も助けたいと訴えたり、自分だけに食べ物を与えようとする父親に必ず分け合うと約束させたり。
こんなに荒んだ世界でどうやったらこんな優しさを保ち続けることができるんだろうと、活字がにじむのを防ぐ手立てもないまま読み進んだ。二人が言う「火を運んでいる」という言葉について、具体的な説明はない。火を運んでいるから自分たちは獣のようにはならない、と言っているので、それはこの世界がほとんど忘れている善の部分のことだと解釈した。
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二人が南を目指すのも、希望のある目的地というわけではなく、多分凍え死ななくてすむだろうという理由だ。やはり、とことん暗い。子供を守る為に無理をし、食べ物をなるべく子供に食べさせるために嘘までつく父親。当然体を病魔が蝕み、やがて死んでしまう。
この小説が、どんなに重くても暗くてもバッドエンドになっていないところが好きだ。決して楽天的なエンディングではないけれども、「火を運んでいる」子供ならきっと生きのびて、絶滅にひんしている「人間」を復活させることができる。そう信じさせてくれるエンディングだった。
(50代女性)
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