読書感想文「妖怪アパートの幽雅な日常(香月日輪)」

「君の人生は長く、世界は果てしなく広い。肩の力を抜いていこう。」妖怪アパートに住み始めた主人公はある大人にこう言われる。『妖怪アパートの幽雅な日常』の一巻は主人公がこの言葉を受けてからどのようにして肩の力を抜いていくのか、そんな物語であると私は思う。

 

私はこの本を題名だけ見て妖怪がどんどん出てくるギャグ小説かと思っていた。しかし、読んで見るとそれが大きな勘違いだと気づいた。妖怪やお化けの類は出てくるものの、この物語の重要な部分を担っているわけではなかったのである。

 

主人公は中学の時に両親を亡くし、高校を卒業したら即戦力の社会人になろうと思っていた。しかし、偶然が重なり妖怪アパートと呼ばれる場所に住むことになる。そして、妖怪アパートに住む奇妙なただの人間たちと会話をする。この会話のシーンが私は一番好きだ。大人たちが自分の仕事について話したり、1つ年上の女の子が楽しそうにはしゃいでいたり、今までに起きた失敗もお酒を飲みながらわいわい話しているシーンを読んでいると、まるで自分が宴会の中に入って楽しんでいるような不思議な感覚になってくる。

 

また、そのシーンに出てくる食べ物の描写がとても細かく、読めば読むほどお腹がすいてきてしまう。特に最初に出てきたとんかつは「きっとサクサクしてるのだろうな。」と食べている主人公がとてもうらやましかった。私は小説を読みながらお腹の虫が鳴ったのは初めてだった。なんてことない日常の風景なのに、どの小説よりも臨場感があるのだ。

 

また、出てくる主人公と対峙する人物たちは他人事とは思えないキャラクターばかり。どの人物も悪いやつと片づけるより先に痛々しいと感じた。現代の日本ではきちんと話をせずに相手を理解しようとしてしまうことがとても多いのだ。スマホやネットにばかり向き合ったり、うまくいかないことに対して頭を使わなかったりしている子どもが主人公の前にやってくる。

 

 

 

主人公が自分にはどうにもできない人物に出会って悩むとき、私も一緒に悩んだ。答えが出ないのではないかと感じた。しかし、読み進めると主人公の親友や義理の姉が「もっと自分に話してほしい。」と伝えてくる。私は自分で出来る範囲を大きくしすぎて頑張って具合を悪くしたことがあったので主人公の気持ちにすごく共感した。何でも1人で解決できるのがかっこいいと思いがちだが、1人で解決するのには限界があるのだ。

 

でも、それを抱えているだけではなく友人に話したり、ご飯を食べながら「解決しなかったよ。」と笑い飛ばしたりして大人になっていくことができるのだなと感じた。最初に抜粋したセリフを言った龍さんは世界をまたにかける術師だ。主人公のように自分一人で出来ることは何か思い悩んでいたこともあっただろう。

 

しかし、大人は視野を広げて前に進まなければならない。後に起こる大切なことに柔軟になるために体に力を入れすぎない方がいいという人生の教訓を主人公に与えたのである。この物語をよんで生きていくのに奇抜なことは必要ないのではと感じた。そして肩ひじを張りまくって自分一人で頑張ると決め込む必要もない。

 

妖怪アパートに出てきた大人たちのように柔軟に、少しかっこ悪いけど自分の人生を笑いながら語れるように私もなりたいなと思った。

 

 

(20代女性)

 

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