読書感想文「クラインの壷(岡嶋二人)」

1989年に出版の岡嶋二人による著「クラインの壺」で、SFとホラーの狭間に執筆された名作を楽しんでみた。
 
一昔前の1980年代、この頃コンピューターは家庭の日常になく、バーチャル・リアリティの技術すらも発想する者が少ない頃だったが、そんなコンピュータの原始時代とは思えない作品であった。無駄のない内容と適切な情報に圧倒されることになった。
 
ゲームブックの原作者である上杉は、バーチャルリアリティの世界を作り上げている謎の会社、イプシロン・プロジェクトに採用されることになり、「クライン2」の制作に携わるようになった。クラインの壺というのは、境界も裏表もまったく区別がない世界を意味しており、このタイトルに上杉の運命が表されているように思った。

 
 
上杉はクライン2のモニターとして採用された高石梨沙と共に、コンピュータに描き出された三次元空間に入り込み、毎日のようにテストを繰り返すようになった。すべてのモノが立体的なリアリティを持って再現され、仮想の物体に触れるときの皮膚感覚すらも、現実のものとまったく区別が付かないほどの出来栄えであるという。
 
最初は目の前に広がる無限の仮想現実世界に感銘を受けつつ、上杉はテストを楽しむことができている様子だった。しかしやがて、仮想現実世界のどこからか「戻れ」、「危険だ」という謎の声を聴き始め、上杉はテストを繰り返すことに不安を覚え始めた。ここでやめておけばよかったのだが、直後に梨沙がどこかへ失踪して、連絡がつかなくなってしまった。
 
怪しい会社であることが判明してきたが、どうやら上杉が参加したイプシロンは、巨大な闇の中に置かれた組織であることが明らかになっていく。梨沙を探していた友人の七美と共に、上杉は犯罪組織イプシロンと梨沙の行方について調べていたが、上杉は予想通りにイプシロンの魔の手にとらわれていまう。
 
やがて上杉がたどり着いた場所は、現実なのか仮想現実なのか、まったく区別不能な狂気に満ちた世界だった。最後に上杉が取る行動により、彼の運命はどうなってしまったのか、その後の記述がないので想像するしかなかったが、バッドエンドを感じさせるものがあった。
 
(30代男性)
 
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