「続氷点」の読書感想文①
『続氷点』は作家・三浦綾子の処女作『氷点』の続編である。1960年代の北海道を舞台にし、主人公・辻口陽子の苦悩と成長を描いた物語だ。最も印象に残っているのは、物語の最後、陽子が網走の“燃える流氷”を見る場面だ。
陽子は前作『氷点』で養母が告げたような“殺人犯の娘”ではなかった。だが、『続氷点』の冒頭で“不義で生まれた子”という真実を知り、陽子は実母をゆるせずに苦悩する。陽子が最終的に母をゆるすきっかけになったのが、網走を訪れたときに見た流氷だった。
陽子と同じように、私にはどうしてもゆるせない人間がいた。自分の価値観を他者に押し付け、他者に命令を下し、常に自分に従わせようとする。だが、その命令が間違っていたと判明しても、決して責任を認めない。そんな人間だ。
私は何年も憎みつづけてきた。だから、“不義で生まれた子”であることを知り、母をゆるせない陽子にとても共感した。人生が両親の不義という事実から始まっていることに苦悩し、母を認められない陽子の姿は、自分のことのように思えた。
前作『氷点』の陽子は何があっても前向きで、どんな状況でも決して他人のせいにせず、環境に左右されずに生きる。養母から嫌がらせを受けても、それを理由に非行に走ったりせず、まっすぐな自分の生き方を貫く。
まるで聖女のような前作の陽子は尊敬できても好きにはなれなかったが、今作の苦悩する陽子は人間的で好感を持てる。道徳を持ちだせば、自分を傷つけた相手を恨んだり憎んだりして生きるよりも、ゆるすべきだということになるだろう。
だが、それはとても難しいことだ。前作では聖女のようだった陽子ですら、今作ではゆるすことができずに苦悩している。その姿に私は勇気づけられた。私は陽子と同じように流氷を見てみたいと思い、冬の網走を訪れた。
氷点下十度の気温、凍りつくような海風、白くかがやく流氷、どれも東京生まれの私には初めて体験することだった。作中にある“燃える流氷”(光の加減で、真紅に輝く流氷)を見ることはできなかったが、満足だった。
『続氷点』の陽子に魅せられた私は、東京から北海道に移り住んだ。今の私はゆるせなかった人間をゆるしている。何年もの苦しみから解放された。陽子が苦悩から解放されたように。
(30代男性)
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