「神様のカルテ」の読書感想文①
4作目だというのにどうしてこのシリーズは、こんなにも毎回私の心を揺さぶり続けるのだろう。今回は、登場人物の過去の出来事を人物ごとに4つのエピソードに分けて紹介してある。どのエピソードも秀作であるが、3番目のエピソード「神様のカルテ」は現役看護師である私にとって、まさに医療の原点を指し示す指標ともいえる特別な作品となった。
國枝さんの選択を受け入れることは今の医療現場では難しい。昨今、大規模な医療現場では、手術件数や術後の生存率などの結果ばかりに捕らわれる傾向もある。医療従事者の満足が必ずしも患者の満足ではないことをこのケースは物語っている。そんな患者に寄り添い、苦悩する一止の姿を愚かだと笑う医療従事者も、悲しいことだが存在する。医療とはなんだろう。病気を治しても、患者の気持ちは置き去りにすることが果たして医療なのだろうか。
懸命に國枝さんに向き合おうとする一止の姿は、眩しすぎて正視できないほどだ。そんな一止を象徴する言葉が、國枝さんから発せられる。「あなたは優しい人だ。だからこそ、私の勝手なわがままを聞いてくれたんでしょうな。しかし、優しい人は苦労します。」一止を主治医としてだけではなく、人生の先輩として温かく見守る國枝さんの言葉には愛情と感謝と尊敬の念がこめられている。病気を治すことはできなかった。でも國枝さんの気持ちに寄り添い、國枝さんの気持ちとともに歩んだことは間違いない。
「優しい人ほど苦労する」それは事実だろう。だけど、「優しさ」のない医療にいったい何が残るのだろう。緊張の続く精神状態での激務。とかく「優しさ」を忘れがちになるけれども決して見失ってはならない。苦悩し自問自答する日々が続いたとしてもあきらめてはならないと思う。この作品は、そう考えるすべての人たちへの医師でもある作者からのエールではないだろうか。
最後にもう一つ、國枝さんの言葉に学んだことがある。「優しさというのは想像力ということですよ」なるほどなと思った。検査結果やデータを基準に事務的に行動することも「看護」と呼ぶことはできる。しかし、「寒いのか、痛いのか、つらいのか、悲しいのか」常に想像力を働かせ、それを基準に患者さんの気持ちに寄り添うことこそ真の「看護」ではないか。だとしたら「看護」は「優しさ」で成り立っているのだ。看護師である私はそれを忘れてはならないと誓った。
(40代女性)
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