読書感想文「ぶたぶたの甘いもの(矢崎存美)」

まあるい優しい気持ち。この本を読み終えると、こんな思いで満たされる。ゆっくりとページを閉じて、余韻を楽しんだあと、また初めから読み直したくなる。
 
もう一度、ぶたぶたさんに会いたい、ぶたぶたさんのまわりの優しい人たちにも。そして、ぶたぶたさんに癒された人たちともう一度、同じ気持ちを共有したいと感じる。ファンタジーではあるが、ぜったいにないとは言い切れない、もしかしたら明日はこの世界に迷い込んでいるかもしれないという感覚はどこからくるのだろう。
 
それは、ぶたぶたさんと出会って人生を変えるきっかけをつかむ人々が、自分自身や自分のまわりの人たちに重なってみえるからではないかと思う。「変化のない生活を送っていたアラサー女子」「仕事に追われていた青年」「夫との死別からやっと立ち直り始めた60歳の女性」「両親との確執に悩んでいた47歳の男性」「幼稚園の娘と新しい土地に引っ越してきた夫婦」みんな深刻な悩みを抱えているわけではないが、心のどこかになにか小さなわだかまりを抱えている。
 
日々の生活に追われて、そのわだかまりを抱えたまま、これからも同じ生活が続いていくのだろうと思っていた矢先に突然目の前に現れる「動くぶたのぬいぐるみ、ぶたぶたさん」。その衝撃は、わだかまりをも一瞬忘れさせて、「なぜ?どうして?どうなってるの?」という自問自答が繰り返された後、自分以外の人々が普通に接しているのに気が付いて、いつのまにか「あたりまえのこと」という感覚に変化し、最後には「普通に接する人々」の一員になっていく。

 
 
「普通に接している人々」の間にはいつも「ぶたぶたさんを守ろう」という温かい空気が流れていて、自分も一員として過ごしているうちにわだかまりはいつの間にか姿を消し、変化のなかった生活は、大きな変化を遂げ、今まで感じたことのなかった生きる力がわいてくる。
 
「こんな世界で生きてみたい」と私は思うのだ。人々の心にある優しい気持ちや愛情が、他の誰かを同じ気持ちにさせ、一緒になって更に大きな力となっていくような世界を。もちろん「ぶたぶたさん」のように奇跡は起こせないけれども、今日、誰か一人でも笑顔にすることくらいならできるかもしれない。もしかしたら、その誰かが次の誰かを笑顔にしてくれることだってあるかもしれない。そこから一歩ずつでもこんな世界に近づけるんじゃないか。
 
この本は私にそんな気持ちを芽生えさせてくれた。そう思ったらもう一度はじめから読み直したくなった。
 
(40代女性)
 
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