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読書感想文「風立ちぬ(堀辰雄)」

「風立ちぬ」の読書感想文①

タイトルの「風立ちぬ」は、フランスの詩人ポール・ヴァレリーの詩「Le vent se lève, il faut tenter de vivre」が引用されており、これに対する訳が「風立ちぬ いざ生きめやも」となっている。「風が立った。さあ生きようじゃないか」という逆境に向かう意気込みが込められているように思える。
 
この物語は、主人公の男性と結核にかかった婚約者が、闘病生活のため高原で生活する話である。美しい高原の牧歌的で透明感のある風景と、病院で養生する婚約者の様子がメインで話は進んでく。この物語が描かれた時代は、結核は不治のものとされていて、治る見込みのないものだった。
 
穏やかだった人生の中に、突風のように巻き起った困難、波乱。その突風とは、愛する者が死に至るということであろう。このストーリーとタイトルと照らし合わせると、「消えゆく魂のうちに、最後まで懸命に生きようとする美しさ」がテーマではないかと感じた。そして、この物語には、主人公と婚約者以外の登場人物がほとんど出てこない。
 
この二人以外に「必要な他者はいない」のだ。熱心に看病する主人公と婚約者による、何人たりとも入り込むことはできない、触ることができない二人だけの世界。死が二人を分かとうとする中で、ゆるがない絶対的な関係が、そこにはある。この物語は、懸命に生きようとする婚約者を描くだけでなく、主人公と婚約者の究極的な愛を描いているように思える。
 
文中にある「私たちのいくぶん死の味のする生の幸福」とは、「迫りくる死によって、よりはっきりと浮き彫りになった、日々の一瞬、一瞬に感じられるささやかな幸福」ということだろう。悲しみと愛おしさ。悲哀と慈愛。風のように吹き去ってゆく時の流れや、残された時間を互いに支え合いながら生きる二人を通して、病や死という苦しみと悲しみと、それらをばねにした互いに対する一層の愛おしさと、生きる意志がこの物語には感じられる。
 
(30代女性)

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