読書感想文「死日記(桂望実)」

主人公の少年が、先生に文章を書くことを勧められ日記をつけるよう になる。その日記と、他に彼が書い たらしい創作文を挟みこみながら 男の刑事が捜査をしている話が進行 する。

 

母親の恋人の男に虐げられ、 ろくに世話を見てくれない家庭環境 にあること合わせて創作文の内容 が残虐なことをつなげて考えて、彼 が母親の恋人か、それとも母親共々 殺した事件を刑事が調べているの ではと、途中まで勘ちがいしてい た。

 

日記の大人しく穏やかそうな印 象とのギャップが、余計に生々しい ようにも思ったが、最後のほうで、 実は殺されたのは少年のほうで、刑 事は両親が保険金目当てで、事故に 見せかけて殺したことを暴くのだ。作者は、少年が起こす事件に、自分 たちがどれだけ思い込みをしている か、気づかせたかったのだろう。

 

彼 らが事件を起こすのは、残虐なゲー ムや漫画、イラストが好きだからで も、生まれたときから邪悪な心を 持っているからではない。また彼ら は自分たちとまったく違う人間とい うわけでもない。誰にでも大なり小 なり、「仕返しをしてやりたい」 「殺してやりたい」と思うことがあ り、ただ、実行しないだけだ。

 

 

 

かと いって道徳心が、そうさせるのでは なく、家族に迷惑をかけたくないとか、後ろ指を指されるのは嫌だとか、まとも な職につけなくなるからとか、案外その 理由は、卑近なものだったりする。誰だって、人生を生きにくいものにはしたくない。

 

だから問題 は、人に憎しみや殺意を抱くこと自 体でなく、自分のそういった思いを 解消するのと、自分の人生に汚点を残したくないと思うのと、天秤に かけて前者を選んでしまうほど、 この先、生きていたってどうせい いことがないのだと本人が投げや りになっていることなのだと思う。

 

主人公の彼は、投げやりになってい なかった。母親の恋人に暴行され、 母親にはかばってもらえず家族に 恵まれた友人の傍にいて、先生には 気にかけてもらいつつ助けてもら うには至らず、そんな彼らに、きっ と妬み恨み怒りがなかったわけはな い。それでも、彼は進路に悩む友人 を見て自分の将来を考え、文章を書 くのがうまいとの先生の指摘を受け て、それも参考にし先の人生を歩 もうとしていた。

 

たしかに、創作文 には母親らへの殺意があるように見 受けられるものの、本当に殺した らその歩もうとする人生が台無し になる。だから、気持ちはあっても やらないとの選択をした。選んで 当然のようなこの選択を、でも するのが中々難しい。投げやりにな るのは楽だが、先の人生を見すえる のは楽しいばかりでなく不安や 恐さも覚えるからだ。

 

だから、やら ないと選択した彼は、勇気があって 尊い。何より、その健気さが愛おし く思える。彼の先生と友人に、事件の顛末を知 らせた刑事が去り際にこう言う。 調べていくうちに自分の息子のよ うに思えてきたと。刑事に子供はい ない。それでいて、子供が関わる事 件を多く見てきただろうから、子供 のことはよく知っている。

 

そんな刑 事が口にするこの言葉は重い。境 遇や環境のひどさから、非行や犯罪 に走りやすい子供が多い中で、彼が 希望に見えたのだろうし、だからこ そ無念でもあったのだろう。どん な親だろうと、せめて殺さないでい てくれたら彼はその後も前を向 いて歩いていけたのにと。

 

人が悪いことを考えたり思ったりす るのをやめることはできない。で も、それができなくても、罪を犯さないとの選択はできる。 できると思いたい。たとえ理由が、 好きな子に嫌われるからなんてのでも、むしろすごいいいと思うのである。

 

 

(30代女性)

 

 

 

 

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