羽生という男は最初は嫌いだった。山岳会という組織に属しながら我が儘を言う姿やアルバイト先での協調性のなさ、そして自分の登山観を強引に人に押し付ける傲慢さなどすべてが嫌だ。象徴的な部分が山岳会のエベレスト登頂の時である。隊長は第二次アタック隊が登頂の可能性があると判断したにも関わらず、第二次アタックのメンバーになった羽生が怒るシーンだ。
他人の考えを深く考えることのない自分中心の世界であるから、山岳会から離れたのは自然の成り行きであろう。しかし可愛がっていた岸文太郎が死んでからの、羽生自身の言葉はあまりないがが確実に変わったと思った。やはり山での事故死を目の当たりにして、自己中心の考え方が変わったのだと思う。
そして自ら羽生と繋がったロープを切って滑落死してしまった岸文太郎が彼を変えたのは間違いない。岸亮子を愛していながらシェルパ族の女性と結婚したのは、自分の死を覚悟していたのではないでだろうか。いつの間にか私は羽生を好きになっていた。深町についてであるが、彼は羽生ほど強くない人だと感じる。体のことではなく、精神的なものだ。
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深町こそが一般社会に多くある普通の姿だと思う。離婚を経験し、山登りも中途半端で終わってしまいそうである。しかし、マロリーのカメラを手に入れたことから羽生との出会いがあり、羽生に強く惹かれていく。自分にないものを羽生を追いかけることで見つかるのではと思っていたのはないだろうか。
実は私はこの本を二泊三日で祖母傾を縦走中のテントの中で読んでいた。一日目の祖母山近くのテント場は11月初めであったが、夜になると気温零度まで冷え込み、その寒さでなかなか眠ることが出来なかった。エベレストに挑戦している羽生は零下20度から30度の空気が薄いところで眠り、行動している場面を見て恐怖を覚えた。
私は山登りをレジャーではなくサバイバルと捉えているので羽生や深町の山とは共感を持てるが、とても楽しいとは思えない。まるで修行僧のように感じた。山岳信仰があったころの修験僧たちは厳しい山の中に入ることによって羽生のように一般社会から離れ、欲社会を捨て精神の解放という道を選んだのではないだろうか。私はこれからも山登りを続けるが、しばらくは羽生と深町のことを考えながら登っていくことにしたい。
(50代男性)
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