「三陸の海」の読書感想文
誰にでも「第二の故郷」といえる地があるだろう。また、現在ある自分の原点となった土地があるにちがいない。岩手県にある田野畑村は、著者である津村節子とその夫、吉村昭にとって、第二の故郷であったといえるだろう。しかも、吉村昭と津島節子にとっては、小説家としての原点の地でもあった。この本からは、田野畑村への愛が感じられた。
吉村、津島夫妻は、田野畑村に住んでいたわけではない。毎年夏に滞在する地であった。しかし、単なる観光客ではなかった。岬の所有者になり、また、乳牛のオーナーになって、観光客以上の関わりを持っていたのだ。三陸海岸にある田野畑村は、東日本大震災で大津波の被害を受けた地である。しかし、著者は、大津波に遭遇する前の田野畑村を知っている。三陸リアス式海岸特有の険しい所で、かつては宿泊できる施設もなかった。また、無医村でもあった。
村長の尽力により、宿泊施設がつくられ、医師が呼ばれる。酪農の振興を図る。また、教育にも力を入れていく。変わっていく村を見たいから、毎年、田野畑村を訪れるのだという、著者の気持ちがわかるようだった。読み進めていくうち、私は、活気ある田野畑村の魅力を感じた。観光客誘致ではない。住民の暮らしに密着した村づくりをしていたのだ。「人に歴史あり」という。しかし、小さな村であっても、かけがえのない歴史があるのだ。
積極的な村づくりの歴史があるからこそ、田野畑村は、震災後もたくましく村の再建に歩み出している。震災前の田野畑村があるからこそ、現在の田野畑村がわかる。私も行ってみたいとさえ思った。それだけ、魅力のある描写だったからだ。これからも、著者と田野畑村は、関係を深くするにちがいない。そしてまた、著者にとっての田野畑村は、そのまま、夫の吉村昭との思い出にも繋がる地でもあるのだ。
夫婦の歴史がつまっているのが、田野畑村なのである。田野畑村を語ることは、そのまま、夫婦の歴史を語ることでもあるのだ。夫の吉村昭はもう亡くなってしまった。しかし、著者のこころのなかで、夫婦の歴史はあたためられ、新しい作品を書く原動力となるのだろうと、予感した。
(40代女性)
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