読書感想文「ハチはなぜ大量死したのか(ローワン・ジェイコブセン)」

数年前からニュースで見かけるセイヨウミツバチがいなくなった問題について、この本で著者は包括的に分析し安易な答えを出さず総合的な問題として捉えている。私はこのテーマについて既にネオニコチノイドを含む農薬とそれに耐性をつける為に開発使用され既に一部の国や地域で使用禁止されつつある遺伝子組換え作物による影響だと理解していた。

 

しかしこの本にはセイヨウミツバチ全般の特徴に限らず、実際に欧米で広く普及しているイタリア原産の大人しく寒い冬にも耐え大量の蜂蜜を集めるセイヨウミツバチの伝来から始まり、主に米国内の作物などセイヨウミツバチの餌となる植物の変遷とそれに伴う養蜂産業の変遷が詳しく分析されている。

 

従って単純にネオニコチノイド系の農薬とそれに耐性を持たせる為の遺伝子組み換えしか知らなかった私には新鮮な知識が豊富に含まれていた。特に米国西海岸付近のアーモンド畑で早春に大量のセイヨウミツバチを受粉に使う必要が何故あるかについて、早春に多数のミツバチを準備する困難さとミツバチ同士を競合させる事で生産性の高いアーモンド畑が成り立つ受粉の仕組みには驚かされた。

 

 

 

もう一つ驚いたのは蜂蜜の品質と価格についての記述だ。私も花が変われば蜂蜜の味が変わる程度の事はこの本を読む前から知っていた。しかし米国の蜂蜜相場が中国等から輸入された蜂蜜によって暴落し養蜂農家を蜂蜜の生産者から受粉産業の担い手に変貌させた事にまず驚いた。

 

しかもその輸入蜂蜜の中には蜂蜜以外の成分が含まれる偽物さえ混じっている問題もそれを放逐し切れない問題も、流通から偽物を排除した後で検査を緩めれば隠匿された偽物が再び流通に戻る問題には更に驚かされた。これは蜂蜜や蜂蜜擬きに含まれる糖分が高過ぎて腐敗しないから起こる不正に違いない。私自身が贈答品のお下がりでいただく蜂蜜くらいしか消費してなかったので、腐らないと云う点を忘れていたからである。

 

先に述べた通り、著者は養蜂の歴史から紐解き米国内の養蜂産業が抱える重大な問題について、上に挙げた問題などを多面的に分析している。著者の分析は更にオーストラリアから米国に輸入されたセイヨウミツバチの問題など日本を含む外国のミツバチについても広く言及している。日本のミツバチがスズメバチの攻撃から巣を守る為に自らを発熱させ死滅させる方法まで紹介されていた。

 

ここで使われているミツバチが発熱する仕組みが本来熱帯に分布し繁殖するミツバチの越冬のために発達した能力の応用である事が非常に詳しくイタリア原産のセイヨウミツバチの項目で述べられており、この点も私には新たな知見であった。

 

私が読書前に期待した犯人探しの答えは明確で単純なものでなく、現代社会の穀物生産現場の課題や養蜂農家が伝統的に使用し続けた巣箱の中に潜む構造的な問題まで広がり、推理小説を読んだ時の様なすっきりした感想にはなり得ない。

 

しかし現実に発生している重大なセイヨウミツバチがいなくなった問題であるからこそ、冷静に歴史的背景から紐解く著者の分析はミツバチの存在の大きさとそれを当然自由に使える資源として甘えて来た農業生産者が今陥っている問題の深刻さを理解するのに良い内容であった。

 

(50代男性)

 

 

 

ハチはなぜ大量死したのか (文春文庫)
ローワン ジェイコブセン
文藝春秋 (2011-07-08)
売り上げランキング: 171,010

 

 

ブログをメールで購読

メールアドレスを記入して購読すれば、更新をメールで受信できます。

 

ローワン・ジェイコブセン作品の読書感想文はこちら

コメントを残す

シェアする