読書感想文「くちびるに歌を(中田永一)」

私は現在40歳を超えた年齢になるが、この小説を読んで、自分が15歳の頃に抱え持っていた自我、迷い、憧れ、夢、家族への感情などいろんな懐かしい感情を思いだした。15歳という思春期の少年少女のもつさわやかさ、残酷さ、友情、孤独などいろいろな面から懐かしい昔のことが思い起こされた。

 

青少年を取り巻く環境が変わり、いじめなど悲しい事件も多い昨今であるが、この小説にでてくる合唱部の活動の様子などは、25年以上も前に吹奏楽部に所属していた自分の部活動と重ねて思い出すことがいっぱいあり、今の中学生にも私の頃と変わらないような光景もあるのだなあと感銘を受けてしまった。

 

もっとも、この小説の舞台となる五島列島は現在の都会の中学校とは環境もまったく異なるということは考慮しなくてはいけないであろうが。部活動には先輩後輩関係があり、同学年同士の人間関係、合唱部や吹奏楽部といえば男女が混合のため、男子、女子の対立などいろいろな人間関係がでてくるものである。

 

この小説の部活はもともと女子だけだったところに、東京からきた代理の顧問の美しく若い先生が入ってくることにより、男子が入部してきて、一緒にNコンを目指すようになる。子供のころ代理の先生が教室に入ってくるときに感じたワクワク感を新鮮に思い出した。

 

小学生、中学生の頃は転入生や席替えなどが人生のなかの結構大きな重大事だったなあと懐かしく思い出した。真面目な部長女子も、引っ込み思案の主人公も、うちのクラスや部活にもいたあの子のようだなあと思い出しながら読んだ。

 

 

このようなほんのりと温かく読みやすいストーリーの中に「十五年後の自分に向けた手紙」というテーマが盛り込まれており、主人公の自分へ向けた手紙を読んで、涙がでてきた。40歳を超えた今、自分の存在意義というものは思春期特有のテーマではなく、もちろん一生を生き切ってみるまで答えの出ない重いテーマなのだということはわかってきているつもりだ。

 

それでも15歳の主人公の自分の存在意義のとらえ方に衝撃を受けた。この少年は生まれながらにして自閉症の兄を持ち、その兄の将来のたえに自分が作られた子供であるということを自覚しているのだ。自分の存在意義は生まれたときから決められ、自分はその枠の中で生きるしかないと思っている。

 

人は親を選ぶことができないが、この子がおかれた運命はやはり一般的な家庭からみると特殊なものでないとはいえない。15歳にして葛藤しながらも自分の運命を受け入れて生きていこうとしている覚悟をするというのは、悩みなどはありながらも気楽に親に守られて生きていた自分には到底想像のつかないものであると思う。

 

人とは違う、決まった生き方しかできないという口惜しさを感じている少年の思いに、大人として胸が痛くなった。しかし、この物語の終盤では無口で一人ぼっちだったこの主人公にも部活動を通じて仲間とのかかわり合いの中でこれまでとは違った自分がいることに気づき、成長を遂げている感じがするのが救いであるように思える。

 

家族という人間関係、友人という人間関係のなかで、勉強では学べないものを学んで15歳は成長し続けるのだと思う。自分の子供が大きくなったらぜひ読ませてみたい一冊である。

 

(40代女性)

 

 

 

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