読書感想文「帰郷(ロザムンド・ピルチャー)」

心が疲れている時、わたしはロザムンド・ピルチャーの本が読みたくなる。特にこの『帰郷』は、精神的に辛い時に何度も読み返している。14歳の主人公のジュディスはイギリスのコーンワルに母親、歳の離れた妹、そして住み込みのメイドと暮らしている。ところが父親の希望でジュディスを一人イギリスに残し、母親と妹が父親の住むインドに引っ越さなければならず、寄宿学校にはいることになるジュディスの友人との別れのシーンや母親が右往左往しながらの引越し準備をする様子から物語は始まる。

 

これまで仲睦まじく暮らしていたとは言い難いこの家族なのだが、離れ離れに暮らさなければいけないことで母とジュディスはお互い相手を気遣い始めていく。この14歳の主人公と現実にうまく対処できない母親の関係が、私自身の周りにもありそうな関係に思え主人公の気持ちに感情移入してしまう。

 

 

 

ジュディスは寄宿学校に入学しラヴデーというとても個性的で天衣無縫な少女と出会い、アン(『赤毛のアン』の主人公)なら きっと腹心の友とよぶに違いない心の通い合う友人になる。このラヴデーとの関係が彼女の人生を大きく変えていくことになり、ラヴデーの暮らすナンチェロー屋敷にまるで家族の一員のように迎え入れられるジュディス。

 

イギリスが第二次世界大戦に突入しジュディスは遠くに離れた家族の安否さえ確かめることの出来ない現実を抱えながらも 恵まれた生活を続けていくことができる。恵まれたと言うのはこの屋敷での海へのピクニックやクリスマスのパーティーなどの 物質に何不自由ない華やかな日々だけでなく、ジュディスがいつまでも続くことになるだろう信頼関係を築くことができる環境だという事だ。

 

こんな心満たされた人々の関係が描かれているところがピルチャーらしいと思う。もちろん苦痛を伴う人間関係も彼女は経験することにもなるのだが。やがて恵まれたナンチェロー屋敷の人々にも例外はなく、戦争の現実が押し寄せて来る。大切な人の死・残された人々の絶望・空爆の恐怖・生活必需品の欠乏など数え上げたらきりがない。

 

戦争は勝ち負けに関係なく大きな犠牲を強いるものなのだと改めて私は感じる。その後ジュディスはある不幸を切っ掛けに海軍婦人部隊に入隊、赴任地で終戦を迎える。両親の死、行方不明だった妹との再会など描かれた後、彼女は再びコーンワルでの生活を始めることになる。

 

そこでジュディスは大切な人々の幸せとはいえない現実を知り、心痛める。特に親友ラヴデーの不幸に。そして今度は自分が人を癒す立場になろうとしていく。読んでいて、戦前、戦中、戦後、どの時代であろうとやはりコーンワールでの生活を描いたシーンに一番心が休まる。

 

ジュディスにもラヴデーにも、最後には幸せを予感させる終わりが待っている。自分の心が疲れているとき、救いを求めているとき、そして自分が嫌になるときにピルチャーの作品を手に取る大きな理由の一つは心安らかなハッピーエンドで終わることを知っているからかもしれない。上・中・下に分かれた、それも一冊一冊がとても分厚い長編だけれど、読んでいる間とても幸せな時間を過ごせる。

 

(50代女性)

 

 

 

 

帰郷〈上〉

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