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読書感想文「西部戦線異状なし(レマルク)」

「西部戦線異状なし」の読書感想文①

何ということだろう。生き延びて帰った懐かしい我が家より、戦場の方が心が休まるとは。戦場では過去、何千万人という兵士が、故郷に帰りたいと思いつつ異国で骸と化したのに、彼らが死の間際まで欲してやまなかった我が家が、主人公、パウル・ボイメルにとっては心休まる居場所ではなくなってしまったのだ。
 
「西部戦線異状なし」の前書きに、作者のレマルクはこう書いている。「この書は訴えでもなければ、告発でもない。ただ砲弾は逃れても破壊された世代を報告する一つの試みに過ぎない」と。無論、今から見れば微笑ましくさえある第一次世界大戦の兵器であっても、大量殺戮には十分な威力を持っており、人間は物理的にも徹底的な破壊を受けることになる。
 
パウルは、ある戦友の死を、「最後の審判の日に、彼の体を完全命中弾の中から拾い集めるのはさぞ手間がかかるだろう」と言っている。しかし、生き残ったとしても、心には最早以前の生活には戻れない何かが巣食ってしまっている。「十九歳で、ぼくらは老人になってしまった。」というパウルの言葉がこのことを端的に物語る。 
 
休暇で帰った懐かしい我が家で待っていたのは、病気の母、生活の苦しさと闘う父、戦場の苦しさに無理解な地元の人達。そしてパウルは休暇を終えて戦友たちの元へ戻ってきた時にようやく心の平安を感じるのである。故郷の、故国の為に命を投げ打つ彼らが戦場に安らぎを覚える。この笑えない逆説的な事実に、戦争の救いの無さの一つを見るのである。
 
では、その安らぎを覚える戦場とはいかなる場所か。毒ガスで青ざめて動かなくなった味方の死体を見、壊滅した味方の分の食料が多く行き渡ることを喜び、シャベルを持って突撃して敵を引き裂く。一方戦友も次々姿を消す。高校時代からの親友クロップは足を失い戦場を離れ、数学が得意だったレエルは砲弾の破片が腹を直撃、泥炭掘りのウエストフウスも背中を負傷して戦死する。
 
とうとう不死身のベテラン、カチンスキイまでがあっけない最期を遂げる中、パウルも遂に戦死する。「このような最期を予想していたかのような、安らかな表情」を浮かべて。「西部戦線異状なし、報告すべき事項なし」と軍の報告書に記された日の出来事である。
 
陰惨な戦争の体験の多くが、まるでピクニックに行った様子を日記に書いているかのような明るい筆致で描いている。その乾いた描写が、一層戦争の現実を私の心に突きつけた。
 
(40代男性)

「西部戦線異状なし」の読書感想文②

第一次世界大戦が勃発した直後、ドイツの青年パウル・ボイメルは高校卒業後多くの級友と共に無邪気に志願兵となる。彼らが特段愚かだったのではない。同じ頃イギリスでも「クリスマスまでに戦争は終わる」と何百万もの若者がこれも無邪気にピクニック気分で志願兵となったのだから。

この小説の冒頭は、兵たちが食糧の支給を受けに集まってくる場面から始まる。しかし前夜の猛砲撃で部隊は半数に減っていた。そうとも知らず炊事兵は人数分の食事を用意していた。それを聞いた食いしん坊のチャアデンは2人分食料がもらえると、「これは天の賜物だ!」と喜ぶのである。

ここに戦争の暗さはあまり感じられない。しかし戦友が「半分は共同墓地か夜戦病院よ」と言う事態を「天の賜物」と喜ぶところに救いのなさを感じる。「反戦作品」として評されるこの作品だが、大部分は奇妙な明るさが流れている。暇な時はオマルを持ち寄って輪になってカルタ遊びに興じる。

軍から支給された食料を持って行ってフランスの村娘とよろしく一夜を過ごす。「兵士なんてのは、砲弾さえ降ってこなければ悪い商売ではない」との言葉。こういった呑気とも言える日常が描かれていく。 

一人また一人と戦友たちが斃れていく中で過酷な戦場の描写もあるが、それを殊更全面に出して「戦争はこんなに悲惨です、残酷です」と言う描き方はほとんど見られない。しかしそれだけに、カビが広がるように戦争のもたらすものが主人公を中心とする若者たちに浸透していくのを感じ取る。

ある時パウルは休暇をもらって帰郷するのだが、そこに待っていたのは戦場の現実に無理解な人々、懐かしくも窮乏してゆく家族、銃後でも権力を振りかざして威張り散らす軍人だった。彼は「思っていたのと全く違う」休暇を終え、戦友たちの元に戻ってくるとホッとするくだりがある。

戦友たちのいる場所がむしろ安らぎの場となってしまったと言う現実こそが戦争の救いのなさの一面であろう。前書きに「この書は訴え出なければ、告白でもないつもりだ。ただ砲弾は逃れても、なお戦争によって破壊された、ある時代を報告する試みに過ぎないだろう」とある。

直接砲弾で破壊されなくても、戦争は確実に破壊をもたらすのである。有名なこの題名も最後まで読むとその意味するところがわかる。

(50代男性)

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