「下町サイキック」の読書感想文
吉本ばななの小説は、小説と言うよりもエッセイに近いように感じる。もっと言えば、エッセイと言うよりも一部の人たちに向けて書かれたやわらかな自己啓発本のようである。しかし、「下町サイキック」は、今を生きる、これからを生きる多くの人々に向けて書かれた作品なのではないだろうか。
主人公の女の子キヨカは、見えるはずのないモノが見える不思議な能力を持つ。物語は、中学生から大人になるまでの彼女の目線で進んでいく。サイキックと聞くと、自分とは関係のない特別な人だけのもの、自分には関係も縁もないものと感じる人が多いのではないだろうか。
しかし、この物語を読み進めるにつれ、サイキックは決して特別なものではなく、日常生活のいくつもの場面で見て取れる現象なのだと気付かされる。例えば、散歩の途中に分かれ道があり、どちらに行こうかと迷ったとき、気持ちは右側を選んでいるのに、遠くに見たことのない新しいお店の看板を見つけて左に進もうとする。
足を進めようとしたときに、頭のはしっこに「やっぱり右がいいのでは?」というメッセージが届く。けれど、そのメッセージに気付かないふりをして左を選び、しばらく足を進めると、車に轢かれた哺乳類の死体に遭遇する。ここでようやく、やっぱりあのとき右に行くべきだったと気付くのだ。
キヨカの日々日常の生き方を見ていると、自分にも小さいながら良きもの悪しきものをキャッチできる力が備わっていることに気付かされる。このキャッチしたメッセージに気付き、耳を傾け、行動することが自分を心地よく生かすことに繋がるのだと。
今の時代は、スマートフォンの普及により常に多くの情報に触れられる。地方に住んでいても、まるでそれを体験しているような感覚を感じられる。しかし、現代を生きる私たちは、自分の内面と向き合い、小さな気づきを置き去りにしているのではないだろうか。
「下町サイキック」を通して、本当の意味での自分を大切にすることを教えてくれたと思う。
(40代女性)
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