読書感想文「湖水祭(平岩弓枝)」

時代モノはもちろん、現代モノにも傑作が多い、平岩弓枝先生の小説だ。現代モノとは言え、書かれたのは今から数十年前。携帯電話やインターネットが無いのはもちろん、登場人物が公衆電話を使っていたり、JRを「国電」と呼んでいたり、何となく新鮮で面白い。主人公は、旅行会社で働く青年・長谷兵庫。

 

親友を雪山で亡くし、傷心のまま外国で旅行ガイドをしている。そんな彼が北欧のツアー中に出会ったのが、謎めいた美女の雪絵。それがきっかけで、彼は転落死した青年の謎解きに巻き込まれていく。大女優に頼まれた、亡き青年の死因とは。大女優と、兵庫の上司の意外な関係は。そして雪絵の亡き夫によく似た、新進気鋭の人形作家の正体とは。

 

 

 

謎を追ううちに、兵庫は建築会社一族の血生臭い秘密に近付いていく。正直、嫌になるほど憎たらしい人物がたくさん登場する。傲慢で計算高く、女を都合の良い道具のように扱う、建築会社「大国建築」の入り婿・宗一郎。たくさんの女を孕ませては、子供を闇に葬ってきた会社の社長と、その亡き妻。雪絵の亡き夫も、宗一郎と似たり寄ったりのロクデナシだった。

 

彼の死には、雪絵も絡んでいるようで……。そんな人でなし共の中にあって、兵庫や上司、兵庫の妹や大女優、社長の一人娘・千春という、善人達の存在が清々しい。特に威厳溢れる大女優の左江や、純粋に育った千春の存在は、作品の清涼剤だ。今よりも海外旅行が特別だった時代、夢を抱いて北欧へ向かう人達。

 

だが中には、「女と遊べる場所を紹介しろ」とねじ込んでくる、クレーマー客も。現代も、そう変わらないな……と、ガックリしてしまう。さて、建築会社の一族が次々と殺されるのだが、犯人はあまりに意外な人物だった。その犯人が、何十年も抱えてきた深い絶望と憎しみ、殺意。その最後にもたらされた、明るい救いに癒された。

 

ドロドロした愛憎と復讐の物語だが、読後感は寂しく、少し暖かい。兵庫と雪絵の恋の行方にも、注目である。

 

(30代女性)

 

 

 

 

湖水祭(上) (文春文庫)

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