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読書感想文「林檎の樹(ゴールズワージー)」

まず印象的だったのが、抒情的で美しい文章表現だ。タイトルにもなっている林檎の樹を始め、様々な植物や自然の情景が印象的な筆致で描き出されていて、色彩豊かな情景が目の前に浮かんでくるようだった。同時に、それが人物の心情も間接的に表してもいるようで、目も眩むような恋のときめきから、葛藤、移ろいゆく気持ちまで、様々な心情に寄り添うようにして鮮やかに変化する情景は、この物語に豊かな息吹を与えていて思わず引き込まれた。しかし一方で、物語の筋立ては、主人公の男の自己陶酔的な身勝手さもあり、あまり共感できるものではなかった。もちろんかつての英国の階級社会において身分の差は、現在の日本人にとって想像の埒外にあるものなのだろうが、主人公の葛藤も悔恨もどこか柔弱で空々しい印象があった。ただし、主人公でなく作者に感情移入した場合、フェアな立場でこの物語を書いているように思えたし、健気で哀れなヒロインへの慈愛に満ちた眼差しも感じられた。また、不気味な存在感を放つジプシーの幽霊も印象的だった。物語の本筋から少しだけ外れたところで描かれるこの幽霊は、一見登場させなくてもいいように思える。
[google-ads] しかし、幽霊が見えなかった主人公と見えてしまったヒロインの差異は、実は物語のありようを象徴的に決定付けているのかもしれないと感じた。この幽霊がジプシーの幽霊であることが二人の身分差を暗にほのめかして入るようにも思えるし、そもそも、幽霊を見るような感受性の有無が、現実的な考えからヒロインを捨てた主人公と、主人公を心から思って夢見るように死んでいったヒロインの、性格や感情の差異を表しているように思えたからだ。この作品は、短い物語でありながら深い味わいがあった。均整のとれた構成や技巧によるところもあるのだろうが、単純に物語を読む楽しみを感じた。訳も読みやすく、適度な硬さを持ちつつ瑞々しさがあり好感触だった。それらの要素が物語の雰囲気を高め、その結果物語の終盤では涙を誘われた。そして本作で描かれた、愛や恋が持つ美しい魔力と狂おしいほどの情熱、不条理なまでの残酷さからは、不思議な陰影と胸に訴えかけてくるような魅力を感じた。読後、余韻に浸りながら、頭の中では様々な色彩が踊っているようだった。
 
(30代男性)
 
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