読書感想文「私をくいとめて(綿矢りさ)」

率直に言って、全体的に主人公に共感は出来なかった。自分の脳内にいるAとの会話を通して悩みを整理したり決断したりするのは、Aという名前こそつけないものの、私も自分とこうやって会話することはあるなと思う。主人公のように毎回ではないけれど。でも、Aは所詮自分の一部であって、自分を超えてはくれないように感じた。第三者であれば背中をドンと押したくなる場面であっても、結局Aは逆の答えを出す。主人公はそれに従う。それって、結局逃げじゃないの?自分の独り相撲で、成長することから逃げてるだけじゃないの?と思ってしまった。主人公の、多田とのリアルな恋のなれそめも、進展するスピードも、私にとっては最高に思えた。この人いいじゃん!と口に思わず出してしまったほど。現実にいる多田は距離の取り方も上手いし、焦ってこちらの意思を無視して暴走することもない。自然な流れで、自然に寄り添っていく様子はすごく好感を持った。主人公の恋愛の相手としてはめちゃくちゃベストな相手に思えた。主人公は多田と、一歩前に進むべきだと思った。自分と対話してばかりではなく、自分にとって未知の世界に進むべきだと。でも、結局、脳内の会話でそのチャンスを見送ってしまうのに正直がっかりした。多田の意外なほどの「恋愛適合者」っぷりが、主人公の「恋愛不適合者」っぷりに敗れたようにも思うが、でも恋愛は勝ち負けではないと思う。そんな考え方もくだらない。大体、恋愛に「適合者」も「不適合者」もないはず。主人公は、自分の事を自ら型にはめて考えすぎだと思う。完全な人はいない。適合と不適合がぐちゃぐちゃに混ざり合っているのが人間という生き物だと私は思う。主人公にはもっとドロドロした感情をもって、現実の多田に向き合ってほしいと感じてしまった。その他に面白かった場面は、Aと実際に会う箇所だ。意外性があって新鮮だった。また主人公の趣味や生活の様子がすごくリアルで、こういう人って現実にいるよな〜と思わされた。映画化されても良さそうなくらい、出てくるキャラクターにもそれぞれ厚みがあったと思う。読後感はあまりすっきりしなかった。モヤモヤしているこの感じが主人公の日常なんだろうなと思った。結構大変そうだなと思ってしまった。

(30代女性)

 

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