読書感想文「限りなく透明に近いブル-(村上龍)」

僕の生活は灰色だ。特に面白いことも起こらず、特に特別でもなく、特に不幸でもない。まさしく灰色だ。黒くもなく白くもない。そんな時この本が目に入った。それはさびれた古本屋で、限りなく透明に近いブルーという色は異色だったのだ。購入後さっそく僕はその本のページをめくった。
 
書き方は独特の光を放っており、ああ他の本とは根本から違うのだと思った。しかし見えたのは青ではなかった。何色ともいえぬ色たちが僕をつつみこんだ。主人公のリュウが薬をやるたびに甘美な香りが僕を包んだ。色は確かうす紫色。女性と交わる時にはピンク色にもなった。
 
僕はウイスキーをあおりながら読み進めた。次第に過去の追体験をしているような気分になった。もちろん僕は薬も違法行為も、女性と交わることだってしたことはない。それなのに鮮明に自分の姿で思い起こすことができた。想像力が豊かな方ではない僕でさえも村上ワールドに吸い込まれるとこうなった。
 
もしも豊かな人間がこれを読んだらどうなるのだろうかと怖くなった。ページを読む速度はどんどん加速していった。数分で読み終わってしまったのではないか、と思うほどだった。しかし実際には数時間が経過していた。時間の感覚を狂わし、常識を狂わし、薬の追体験までさせ、問題作であるのは間違いなかった。
 
いつしか僕はリュウになっていた。世界への見識が変わった。もちろんドラッグに手を染めたわけじゃない。本を通して僕の中に入ってきたリュウが、ドラッグの世界と生き方についてレクチャーしてくれた。灰色で終わるなと語りかけてきているような気がした。楽しく生きるには、自分なりにそう考える時間が増えた。
 
リュウにはドラッグで、女で、友達で、そういうもので構成された世界があった。じゃあぼくにはなんだろう。なにがあるんだろう。読み終えたときにぼくは灰色ではなくなっていた。何色が増えたのかは分からないけれども、ぼくの世界は変わった。読んでよかった、素直にそう思える。
 
(20代男性)
 
 
新装版 限りなく透明に近いブルー (講談社文庫)
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