読書感想文「AMEBIC(金原ひとみ)」

この本を初めて読んだ時、わたしは主人公である「私」と同年代の女だった。もちろんわたしは「私」のように売れっ子の作家でもなければ、「私」が言う「普通にものを食うデブ」であり、婚約者のいる男となど付き合っていなかったけれど、わたしは彼女の中にわたしを見てしまったのだ。
 
わたしの中にも彼女と同じような、コントロールできないぐちゃぐちゃとしたアミーバが存在していて、彼女が錯乱した文章という形で無意識にそれをアウトプットする、という状況が、とてもよくわかった。羨ましさと、崇拝に似た感動さえ覚えた。
 
とりあえずわたしは彼女の真似をして、泥酔したままキーボードを叩いてみた。数日後、シラフの状態で読み返したそれはとても面白かった。そして痛々しかった。自らの闇を覗き見る感覚。心理分析的にどうこうということでなく、抑圧されていたドロドロ。アミーバ。
 

 
 
若い女というものである時期、さらに、多少なり生きづらさを感じている人間であれば、大なり小なり彼女のような感情を胸の中に溜め込むであろうと思う。自虐と過剰な自意識と恋愛への依存と心の闇とそれ以外への無関心と残酷さ。随所に挟まれる、彼女が錯乱した際の怪文書にはそれが張り詰めんばかりに溢れ出ている。
 
正直にいって、この主人公はとても幸せとは呼べないであろう。いくら売れっ子でも、ブランドものの洋服をばんばん買っていても、とても幸せそうには見えない。幸せそうには見えないが、とても素直である。彼女と友達になりたいかと言われれば、絶対に嫌なのだが、当時のわたしもおそらく彼女のように孤独で不幸で素直だったんだろうと思う。
 
彼女はその後幸せになったのであろうか。幸せになったとは思えない。しかし自ら死を選ぶようなタイプでもないような気がする。満身創痍になりながらも、絶望して明るく這いずって生きるタイプな気がする。わたしは現在、当時より幸せだと、確信を持って言える。わけのわからないアミーバを自分の中に飼っていたあの頃、この小説は確かにわたしの救いであった。
 
(30代女性)
 
 
 
 
 

AMEBIC (集英社文庫)
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金原 ひとみ
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