書き出しの文章からその圧倒的な世界観に打ちひしがれる。出だしでのめり込むか否かが決まるとはよく言うが、最近読んだなかでもっとも強い印象を受けた。破壊と創造。人間が生きていくうえで意識無意識に関わらず必ず行うことだと思った。それは恋愛面においても顕著に見られることで、人は様々なことを犠牲にし、自らの殻を破壊し人生を歩んでいく。
はたまた、相手を想うあまりに相手を取り巻く環境や相手自身をを破壊していく。それらの過程なくして人は様々なものを勝ち得ることができないと思う。だがその破壊に伴う創造がその人やその人を取り巻く状況を新しく形作る。人間の人生とはその繰り返しである。こと恋愛に関していえば、常にこの恐怖が付きまとう。恋愛は恐怖だ。
この破壊と創造のサイクルがとめどなく流れていく。そこに楽しみや幸福感を求めることもできるが、常に不安に苛まれることは恋愛に携わったことのある人であれば誰しも感じることであると思う。それでも人は恋愛を求めて止まないのは、人生において破壊と創造の遺伝子のようなものが本能的に組み込まれているからなのかもしれない。
恋愛に距離を置いても、あらゆる些細なことでも破壊と創造のプロセスは満ち溢れている。その人間に根ざしたものが恋愛をする衝動を生むのかもしれない。苦しいことがわかっていても止められないものがある。そのくらい強い感情でのめり込む。盲目になると言ってもいい感情はことさら大きな破壊と創造をもたらす。
その振幅が大きければ大きいほど、得るものと失うものという幸福感と喪失感がどこまでも強く押し寄せてくる。この小説は恋愛が決して一筋縄ではいかないことをあまりに強烈な表現とともに出だしから惜しみなく訴えてくる。そのひりひりと感じる筆致から生み出される激しい感情の数々に、苦しくも光を求めるように読んでしまう。
強い想いというのは必ずしも報われるものではない。秘めて置くだけに留めることができなかったりする。恋愛というものはものすごく理不尽なことを突きつけてくる。それでもそこに生まれてくるもの、生み出すもの、創造の魅力に取り入られてしまう。
(30代男性)
河出書房新社 (2013-07-05)
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