中学生のころ、我が家では朝食時にラジオをかけて食事をする習慣があった。珍しく両親ともが休みで、わたしも習い事のなかった土曜日の朝、なにかのラジオ番組でこの本の書評が読み上げられていた。
おそらく、訳者あとがきの<ラジオのつまみを…>というくだりからのピックアップだったと思う。おぼろげな作品情報のなか、紹介されていた短編の内容がどうしてもおもしろい。なにそれ?どういうことなの?と興味をかきたてられたわたしは、両親にねだり、当時まだ池袋にあった大型書店に連れて行ってもらった。
手に取ると、表紙はホログラムできらきらしていた。女子中学生の心はそれだけでもうわしづかみだというのに、ページを開くとさらなるときめきが待っていた。正直言って、表紙が見せる世界とは裏腹に、かなり殺伐としていたし、なんとなく粉っぽい質感のあるシュールな世界がちりばめられていた。
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粉っぽいというのは、おそらく、セックス(と、彼は呼ばなかったのだけど)によって風化していく「妹」の物語の影響が大きいのだけど、ストーリーテラーである登場人物の視点がごく淡々としているからなのではないかな、と思う。その人物になにが起きても、語り手はあくまで淡々としているから、感情移入ができそうでできなくて、不思議な気分になった。
また、23の短編はそれぞれ短いものの、インパクトがとてもとても大きい。自分と同じくらいかそれより少し上くらいの年の視点が多く、家族、世界、こどものこと、恋愛(それも、全部一筋縄でハッピーエンドにはなれず、ただ甘いような世界ではない)がまるめて洗濯機につっこんで脱水されているような、でももうすこししたら洗濯機から出て乾かしてもらえるような、そんな尻切れトンボっぽい感じがするのだ。
身近なようで、現実的なようで、それでいて突飛なファンタジーが顔を見せている話をガンガンと読み続けたそのあと、ふと「犬の着ぐるみを着た男」を探していたり「あの子の心臓」についてや「イケてる彼女のどうしても隠していたい事情」や「あの子は果たして生まれてくるのか」というような空想が止まらなくなり、夢見がちで多感だった少女はいつのまにか現実と空想の間を浮足立って走り回るような大人になってしまった。邦題が、まさに言いえて妙、という読後感であった。
(20代女性)
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