読書感想文「さまよう刃(東野圭吾)」

「さまよう刃」は東野圭吾作品の中でも、群を抜いて後味の悪い作品だ。強姦・窃盗・殺人あらゆる犯罪の応酬で成り立っているからだ。それも、結末は最悪と来たものだ。だが、私はこの作品を読んでよかったと思っている。その理由は2つある。まず1つが、この作品全体に漂うとてつもない哀愁があるのだ。
 
これが何ともたまらない。映画・小説・音楽等の好みの一つとして、哀愁や切なさを感じさせるエモーショナルな作品が好きだという人は、少なくない。私もその一人だ。この作品を3ページほど読んだ瞬間から、哀愁があふれ出すような感覚に襲われたのだ。
 
もう1つは、主人公との一体感。これはどういうことかというと設定が現実的なため、感情移入がしやすいということだ。例として、他の東野圭吾作品と比較してみよう。彼の代表作である「ガリレオシリーズ」。天才物理学者の湯浅が、数々の難事件を解決する…というものだ。
 

 
 
そもそもの前提が特殊であるため、感情移入という点では難しく感じた。またその他の、「仮面山荘殺人事件」なども、登場人物こそ平凡であるが、事件への巻き込まれ方に異様さがあるため「ガリレオシリーズ」と同様の感想だと言える。対して、この「さまよう刃」は、とても現実的だ。誰にでも起こりうるようなことを題材にしているため、読者に妙な生々しさを感じさせるのだ。
 
男手一つで育ててきた、美しい一人娘を誘拐・強姦・殺人された主人公の長峰。そんな長峰の、犯人を見つけ出し殺すという復讐。普通なら「憎しみは憎しみを生み出すだけだ」「復讐したあとに残るものはない」と、いう感想を持つところだ。それが正しい意見だとも思うのだが、私は、そんな恐ろしい復讐心を心から応援してしまった。
 
この作品に限っては、この長峰の復讐こそが正義であるのだ。犯人の1人を惨殺し、自身も犯罪者として警察に追われる身となる長峰。残るもう一人を、見つけ襲い掛かろうとしたその瞬間、警察の発砲により死亡。なんとも虚しい最後だ。憎しみも怒りも、娘への思いも、見知らぬ警察官の一発によって、全てあっけなく消えてしまうあたりに、世の不条理さを感じさせられた。
 
冒頭でも言ったとおり、この救いようのない終わり方も、この作品の魅力の1つに感じる。さらに追い打ちをかけるように、最後に明かされた衝撃の事実には、思わず息を飲んだほどだ。まさにどんでん返しの結果で驚いた。「後味が悪い」だけで片付けるには勿体ない、非常に素晴らしいと思える作品であった。
 
(10代女性)
 
 
 
 

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