「人魚の眠る家」の読書感想文③
この本を読み解くポイントは、登場人物の誰の立場や感情が一番近くに感じ、考えられるかではないか。また自らの価値観を一旦外に置き、様々な立場で想像をすることにより、興味深く読み進めることが出来るはずだ。
一つ一つの文章から、詳細な行動が頭の中に描かれる。複雑な気持ちも入ってくる。そして考えながらページを捲る。読むにつれ、嫌悪を抱くこともある。おそらく自らの無知と、価値観を拭いきれていないからだろう。
人間の未知なる部分が多く、人間の温かさと冷たさなど、二面性の対比が上手く描かれている。解明されていない生命の神秘と、科学的な根拠、その両方ともを信じたくなるような作品だ。絶望も希望も含まれている。
『生きる』とは『死ぬ』とはどういうことか、偉大なテーマに、様々な考え方を否定することなく向き合っている。日常のほんの些細な、誰にでも起こり得る事故から、ある家族の人生が変わった。
子どもへの愛か自己満足か、悩みながらも生きてゆく母。狂気にも満ちていく姿、葛藤。翻弄される家族や周囲の人々。しかしそれぞれにも強い思いや意志が感じられる。作品の中で人が生きている。
何が正しいかわからない、正解もない、人は自分が思うように、自分を信じるしかないのだ。最初から最後まで、色んな事に悩む登場人物たち。一つの悩みがさればまた別の悩みを持つ。悩みはつきず、それでも生きる。
悩みがあるというのは生きているからだろうか。では、悩む事すら出来ない状態は、生きていると言えるのだろうか。『生きる』ことについて考え抜く、難しく重いテーマである。人間とは不完全であり、不完全な人間の世界、そこにはもう一つの現実の世界が、繰り広げられていた。
作品を読み終えた時、世の中の人々への問いかけを感じるとともに、登場人物のそれぞれの感情を想像し、涙した。とても一言では言い表せないほどの、何とも言えない感情が胸をいっぱいにした。
人間は自分勝手な生き物だ。自らを含めてそう思う。現代人は人への関心が強く、人の心への関心が少ないように感じる。もっと相手の立場で物事を考えたり想像したり、価値観を広げなけばならない。単純に面白いというものではなく、常に考えされられる、そんな作品である。
(30代女性)
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