これは、20世紀のフランスを代表する三大作家の一人アンドレ・ジッドの作品だ。戒律の厳しいプロテスタントの牧師父子と盲目の少女との三角関係の思いが、牧師の一人称の形で描かれている。養女として育てている少女が美しく成長していき、神に仕える身として、また結婚している一家の主として、息子が恋する少女に惹かれてはいけないと思いながら、心の底で揺れ動くのは面白かった。
息子には恋愛を禁止しておきながら、息子以上に恋してはいけない牧師は少女に惹かれずにはいられないのだ。そして、少女は盲目のために牧師親子の姿を見たことが無い。少女は現実の姿を見ずに牧師に惹かれていくのだ。見えない分、想像の中でその姿が美しく描かれていく。これは少女が盲目であるから読み手の私たちにも理解しやすいが、目が見えていても同じことが言えるのではないだろうか。
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見えない部分を想像で膨らませ、好きな相手を自分自身の想像で作り上げてしまい、恋に落ちてしまうのだ。アンドレ・ジッドはカトリックの厳しい家庭で育ったらしく、彼自身、心の動きを形に表すようにカトリックの教会に足を向けてみたり、宗教から離れてマルクス主義に傾いたりしていた。そんなアンドレ・ジッドにとって、戒律に縛られた人間のどうしようもない心の奥底を描く事は、彼自身を描く事でもあったのだろう。
最終的に少女は手術をして目が見えるようになる。実際に自分の目に映し出される世界は、想像していた世界とは全く違う物であった。手術の前に牧師の姿が見たいと言う少女に対して、少女の目が見えるようになると大きく状況が変わってしまうだろう事を恐れていた牧師は、パウロの教えを心の中で繰り返しキリストへの許しを乞う。実際に少女に告白したわけではないが、牧師として許されない思いを正当化したかったのだろう。
少女の手術が成功し少女が現実の世界を見た時、彼女はどれほどのギャップを感じた事だろうか。少女は現実世界に幻滅を感じ、生きる希望を失った。少女にとってみれば、実際に見えないからこそそこに憧れがあり、別世界のように感じていた現実世界への憧れが彼女の光だったのだろう。理性ではどうしようもない登場人物の心の変化が面白く思えた。
(50代女性)
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