読書感想文「介護民俗学へようこそ 「すまいるほーむ」の物語(六車由実)」

認知症を患っている人であっても、子ども時代があり、はつらつと子育てや仕事をしていた時代があったのだという、当たり前なのだが大切なことに気づかされた。そして、個人の歴史はそのまま生きてきた時代の歴史でもある。そのことに気づくと、「老い」とは、年齢を重ねることとともに、経験を重ねていくことでもあると、感じさせられる。

 

しかし、現代社会は「老い」を経験としてではなく、マイナスにしてしまい勝ちだ。そのように考えると、私たちは何か大切なものを置き去りにし、忘れ去ろうとしているのではないかと思う。個人の豊かな経験に耳を傾けることは、現在ある姿を知ることにもつながるのではないだろうか。

 

 

 

そうすると、ケアの受け手として高齢者を見るのではなく、生きている個人として、高齢者を見ることができる。そして、「してもらう」ケアではなく、ケアする側とケアされる側が対等になりうる介護のあり方も拓けていくように思う。しばしば指摘されるように、介護の現場は、流れ作業的になり勝ちだ。

 

ともすると、ひとりの個人の尊厳を侵害することにもなりかねない。ケアの抑圧と被抑圧の関係が生まれることになる。しかし、ひとりの高齢者を経験を重ねたひとりの個人として見ることにより、介護はもっと高齢者の人格を配慮したものになるだろうと思う。

 

私はかつて保育所で働いたことがある。常に安全を求められたのだが、それが、行き過ぎてしまい、子どもたちひとりひとりを丁寧に見るという姿勢に欠けることがあった。保育は、これから経験を重ねていく子どもたちが対象だ。その点では経験を重ねた高齢者とは違う。しかし、いくら幼い子どもたちとはいえ、保育所での保育が、幼児期の暗い思い出になることもありうるのだ。

 

私は、『介護民俗学へようこそ!』を読みながら、幼児の保育を振り返るうえでも、この本は示唆に富むと思った。特に大きなイベントだけが思い出になるのではない。食事や料理といった、日常のなかの小さなこともまた、歴史として堆積されて、かけがえのない思い出になるのだ。そうした思い出が、生きる上での力になるのだろう。人生の入り口である幼児期を考える視点を与えられたように思った。

 

(40代女性)

 

 

 

 

介護民俗学へようこそ 「すまいるほーむ」の物語
六車 由実
新潮社
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