「手紙」の読書感想文⑥
ひと月ほど前に読んだ作品。読了後にも何冊か他のタイトルを読んだが、今も時々「手紙」に登場する兄の心情を思い返してしまう。これ程までに心の隅をチクチクと刺してくる作品に今まで出会ったことはない。
テーマは実にシンプルだ。弟への愛情から殺人を犯してしまう兄と、家族に殺人者をいるという負い目を背負って一生懸命生きる弟。獄中の兄から定期的に送られてくる手紙。刑務所での生活が語られる。
兄にとっては日常であるが、非日常の世界。なんでも無いような内容の手紙だが、弟への愛情が深く込められている。これは物語が始まってから終わるまで一貫している。
そんな兄を憎むようになり恨むようになる弟。私はそんな弟の人生に同情しつつも薄情な人間だとは思えなかった。恐らく私も同じ状況になれば同様の心境になるのだと。例え肉親であろうと、自分へ向けられた深い愛情を知っていたとしても、それはだんだんと変わってしまう。
結局は目の前現実が全てて、最終的に人生が狂ってしまったのは兄のせいだと思うだろう。親族に殺人者がいること、それが生きる上でこれ程までに大きな障害になるとは思いもよらなかった。
上手いきかけた仕事も音楽も恋愛も、生きる為に失わざる得ない状況、その苦しみ。自分とは無関係と思いながら読み進めていたが、本当にそうなのか?と途中何度も自問した。
愛する人が窮地に立たされた時、自分にしか出来ないことがあれば、私もそれを実行するのではないか。それが例え殺人だとしても。そして兄の心情を想像した時、自分に残された唯一の家族、弟は生きる意味そのものなのだと気づかされる。
手紙、それが唯一弟と繋がることのできる手段であり、生きる意味なのだと。最後に兄弟は再開する。兄を目の前にして、弟は、今まで忘れていたものを思い出したに違いない。私はその情景を目の前で見ているかのようにリアルに思い描いた。
その兄の姿が目に飛び込んできた瞬間、何かに強烈に打たれたような衝撃が走った。それは大袈裟じゃなく。失ってから初めてその大切さを知る。その通りだ。
失っていたのは、いや、忘れていたのは、兄の自分に対する深い愛情なのだと。そう気づいた時にはもう言葉はない。歌えないのは当たり前だ。
(30代男性)
う~ん… … …
はじめ 中 終わり どこ?