読書感想文「こころ(夏目漱石)」

国語の教科書にも載る言わずと知れた名作を改めて読み返した。私と先生の心距離を丁寧に美しく記した前半と、始まりから不穏な後半の手紙部分。全体的に鬱鬱した雰囲気だが、先生や私が人に感じる興味や楽しさがちりばめられていて、胸を締め付けられながらも人の感情のままならさを愛しく感じる事ができた。夏目漱石は人を愛していたに違いないと私は思った。

 

この感想ではあえて後半に強く言及しないでおく。語るに落ちるほどの”なにか”が詰まっていると感じるからだ。先生と私の出会いは、似たような環境に置かれていた事から鑑みて必然だったように思える。銭湯のように人々の黒い頭がひしめく海に一人で毎日趣き、学ぶ学問の系統も同じ。

 

私は初めから先生に対して異常とも言える”尊さ”つまり深く触れたくない、触れれば壊れてしまうと思うほどの程の”未知”のなにかを感じていたように見えた。呼応するように、その通り触れられたくなかった先生も、触れてこない私に、この時はまだ不明な一種の期待を見ながら、師と弟子、友、なんんとも言い難い特殊な関係を徐々に築いていた。

 

時が進むと、私は先生の思想の根拠を知りたい気持ちが大きくなっていく。やはりそれに応えるように、私に対して自己投影すらしながら、唯一自分をさらけ出しても良い、尊敬する一人の人間として私を見ていた先生。この、変化しながらも対比が終わらない先生と私という関係に、わたし(感想を書くわたしの事)は大きな興奮を覚えた。

 

あまりにも運命的であると感じた。さらに、私の父の病。先生の覚悟。私の家の抱える相続問題。先生の経験した過去。先生の側にいけない私。話をしたかった先生。そして、死という運命と覚悟、までもが、彼ら二人をこれでもかというほどに美しく対比させていた。

 

美しいながらも鬱鬱しく、日常的ながらも劇的な変化を”感情の動き”と描写力によって表現しきっていたように思えた、秀作だ。明かされる先生の過去は、美しい思い出をそう思えないほどの後悔に塗れていた。私は若者らしく高潔な学徒であるが、血と土を嘗め全身に塗れさせた”人間”は、誰より先生なのだと私は思う。

 

(10代女性)

 

 

 

 

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