「その時までサヨナラ」の読書感想文
仕事人間の男に子育てができるのか、と言うよくありがちな父と息子が心通わせていく物語。逆に言うとオチが分かっている物語。しかし分かっているのに泣けてしまう。はじめてこの作品を読んだのは独身時代で、一人の仕事人間であった頃に読んだ。
主人公の悟の合理的な考え方には凄く共感できるところもありながら、同僚だとしたら「冷たい奴」で片づけてしまう人間だと思った。そんな悟が、別居中の妻の死、そして謎の女性の手助けを得ながら、育児に奮闘していく姿は、仕事人間の自分にとって、よくできたフィクション小説でホームドラマで感動をさせてくれた。
あくまで斜に構えた感動である。実際、仕事人間がそんなに都合よく、育児に一生懸命になれるのか。祖父母に預けておいた方が経済的にも楽なのではないか。とか、合理的の嫌な一面を覆せずに読み終わり、その程度の感動であったのだ。
しかし、結婚し子供が産まれた父親としての視点で再び押入れから引っ張り出してこの作品を読んだ時、まったく感じ方が違った。今現在、妻の死はないもののそれなりに育児に協力している。そんな自分から見ても、序盤の悟の態度は目に余る自分中心さ加減に映った。昔はもっと共感していたのにである。
育児や出産で女性は変わると言われて久しいが、近年は男性の育児参加が多くなってきているのだから、世の男性諸君にこの作品を読んで少し心を入れ替えてもっらてもいいのではないか。入れ替えられないにしても、独身時代に触れておくべきテキストではある。
眉唾で読んでも構わない。自分がそうだったから。分娩台から取り上げられてきたわが子をいつも頭に焼き付けていると、自然と男一人でオムツの処理はできる。亡き妻の思いを背負い家事育児をフォローしてくれる妻の友人女性と悟の恋愛感情の行方を気にしていると、とんでもないオチをぶつけられる。
このチが涙腺を直撃する。タイトルでは全く想像もできないが、「死ぬ前にやり残したことはないか」がテーマとなって語りかけている。
(30代男性)
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